RIHGA ROYAL HOTELS
クーリエ e-ロイヤル

2010.7・8月号リーガロイヤルホテル(大阪)フロアサービス課 チーフドアマン安岡 貞良

「ドアマンは一生の仕事。この仕事が出来ることがホテルマンとしてのわたしの誇りです」

 「わたしが職業を持ったのは後にも先にもこの仕事だけさ。ほかのホテルには行ったこともないし、行きたいとも思わなかったな」

 シルクハットにロイヤルブルーのタキシード。ボストンの最高級ホテルで約50年働いたアメリカの名物ドアマン、ノーマン・パショアム。冒頭のセリフは17年前、彼を取材したとき聞いた言葉だ。息子もまたドアマンとして働く。チャールズ皇太子とチャーチル元首相に会ったことが自慢の彼。「ボストンのアーリントンSt.にはさまざまなドラマがある。

 ビジネスマンや美しい婦人がわたしの前を通り過ぎる。雨の日にはタクシーがつかまらず苦労するけどそれもまたよし。この仕事が大好きなんだよ」。まさにドアマン一筋の人生。

 ノーマンのようなホテルマンがいるホテルを『名門』と呼ぶのだと思う。

「雨の日は、タクシーからおりてこられるゲストが濡れないように、ドアのひさしについた水滴をタオルで拭くように心がけています」

 そして、リーガロイヤルホテル(大阪)にも、名門と言う名に相応しいドアマンがいる。ある雨の日。タクシーでホテルに行ったときのこと。あいにく一万円札しかなく、お釣りを持たない運転手さんが困っていると、白い手袋をしたドアマンがさっとドアを開けてくれ、千円札が10枚入った白い封筒を差し出してくれた。一瞬のうれしい機転。彼らはいつも胸ポケットに両替用のお金をしのばせているのだという。そして、タクシーから降りるときはタオルを出して、ドアのひさしについた雨の水滴をそっと拭いてくれた。洋服や髪の毛が濡れないように。なんという細かな心遣い!わたしはますますリーガロイヤルホテルが好きになった。

ドアマンの生命線ともいえるワイヤレスマイクと白い手袋ドアマンの生命線ともいえるワイヤレスマイクと白い手袋。大規模の宴会があるときは、このマイクにすべてがかかっている。

 そんなゲストへのキメ細かな配慮を考えたのは、チーフドアマンの安岡貞良さんだ。最近では車体の高い、ワンボックスカーで乗り降りする女性やお年寄りのために、エントランスにさり気なく踏み台を用意しているという。

 「どうすればお客様によろこんでいただけるか、そればかり考えているような気がします」と笑う安岡さんは、ドアマン歴20年。ホテルの顧客、政財界の重鎮たちも絶大な信頼を置く、日本屈指のドアマンのひとりだ。

 安岡さんの頭脳には、関西を代表する企業、約5000の会社名と上層部の名前、顔、社用車のナンバープレートが記憶されている。たとえば社長交代や企業単位のイベントがあるときなど、宴会場から退場するゲストを待ち受け、顔を見た瞬間、マイクで会社名と役員の名前を読み上げ、駐車場で待機しているドライバーに呼びかける。迎えの車が集中すれば玄関先で混乱をきたす。ドアマンの絶妙の勘と裁量が試される場面だ。

 「最近は携帯電話の普及でお客様が直接ドライバーに電話をするというケースも増えてきましたが、それでも400人、500人のゲストが一斉に退場されるときはドアマンの腕の見せ所ですね」と瞳を輝かせる。

「ドアマンはホテルを訪れるゲストがいちばん最初に出会う人。それに気づいたとき、この仕事が大好きになりました」

高校を卒業後、人と接する仕事がしたくてホテルの道を選ぶ。ベルボーイを希望して、リーガロイヤルホテルに入社。念願のベルボーイとして仕事に励む日々だったが、約2年半後、ドアマンに異動となった。

 「ベルボーイの仕事にやりがいを感じていたので、最初はがっかりしました(笑)。でも、気がついたんです。ドアマンはホテルに来られるお客様を最初にお迎えする仕事だと。それから本当にドアマンの仕事が好きになりました」

 ドアマンとベルマン兼任のホテルもあるが、リーガロイヤルホテルはドアマン専任制だ。「それだけにプレッシャーと喜びが交錯する仕事ですね」。

 炎天下の夏も、雪が降る日も、シャツにネクタイ、ベストにモーニングという衣装。今日も安岡さんはリーガロイヤルホテルの顔として玄関前に立ち、ゲストの訪れを待つ。ホテルの格の高さとは何か、とよく議論されるが、わたしは安岡さんのような自分の仕事が大好きで、誇りを持って働くホテルマンが何人いるかで決まると思う。